街の中に溶け込むような気持ちで

 

細めた目が大空を飛ぶ鳩を睨みつける

非常事態宣言

僕らは窓の向こう

空なんて大それたものは見ちゃいない

定期的に見えるものが違って見えたらいいのに

この町は何にも代わりはしないよ

変わらなすぎて、自分の顔だけが変わって見えるモンだから、心だけは動かないで重力だけが強く感じてしまう

止めどなくポツポツと水滴を落とす水道の蛇口も

あと少しのところで手が届きそうなのに

ちっとも力が入らない

 

死が人を生かすなんて誰が思い付いたのだろうか

死の淵に立ったものとしては甚だ遺憾である

もしそれが仮にそうだったとしても

まだかき混ぜていないミルクコーヒーのように

複雑に絡み合ったまま解けることのない青空に目もくれず、のうのうと歩くような真似はしないだろう

互い違いになっているブラウスのボタンを直そう

近所の友達の家に押しかけて、老いぼれた猫に一瞥くれて、もう見ることのなくなった本棚に別れを言おう。

 

頸動脈の血が少しごろつく

手足に信号が流れるのがわかる

 

このタイミングで町の中に溶け込めたら、静かで一番良いだろうななんて思っている。